金沢大学 ナノ生命科学研究所

柴田 幹大

タンパク質の動態を可視化する革新的な高速AFM技術

高速AFMにより捉えたゲノム編集の瞬間と生きたニューロンの形態観察

柴田幹大、金沢大学ナノ生命科学研究所 准教授

40億年の進化の旅
「約40億年にわたる生物の進化と、文明の発展について考えると、わくわくしてきます」と柴田幹大准教授は語る。「人類は、地球上の他の種と違って文明を発展してきました。それは、脳が大きく異なるからです。脳は膨大な数のニューロンで構成されており、ニューロンの機能はタンパク質のはたらきにより生じます。つまり、私たちの想像力は、タンパク質のはたらきにより作りだされるのです。それでは、タンパク質はどのようにはたらいているのか?病気との関わりは?これらの疑問に対する答えを見つけることが、私の研究の原動力となっています」。

 

高速原子間力顕微鏡(高速AFM)
柴田准教授は、高速AFMを用いて、タンパク質の分子作動メカニズムの解明を目指し研究を行っている。柴田准教授がこの研究を始めたのは、日本学術振興会特別研究員 (SPD) として安藤敏夫教授の研究室に加わったことがきっかけだ。安藤教授によって開発された金沢大学の高速AFM技術は、液中環境にある試料を、ナノメートルの空間分解能で1フレーム約0.1秒でイメージングできる [1, 2]。これほどの性能を実現できたのは、この高速AFMが長さわずか7マイクロメーターの短いカンチレバーと、垂直方向に共振周波数200 kHzで作動する高速スキャナーを備えているためだ。

 

タンパク質動態の高速AFMイメージング
2010年、金沢大学の研究グループは高速AFMによる画期的な成果を発表した。当時、博士研究員であった柴田准教授は、光駆動プロトンポンプタンパク質であるバクテリオロドプシンのわずか0.7ナノメートルの光励起構造変化を直接可視化することに成功した[3]。「この研究成果は高速AFMのバイオ応用研究にとって大きな前進でした。高速AFMを使えば、様々なタンパク質のはたらく姿を直接動画として捉えることができる。さらに困難な課題に挑戦しようという自信を与えてくれたのです」と、柴田准教授は振り返る。

バクテリオロドプシン

 

CRISPR-Cas9によるゲノム編集の瞬間
CRISPR-Cas9は、生きた細胞のゲノムを意図して操作することができ、現在、最も注目を浴びるバイオテクノロジーの一つである。しかしながら、ナノスケールで起こるDNAと酵素の反応をリアルタイムで可視化することは非常に難しく、CRISPR-Cas9によるゲノム編集の過程を直接可視化した例はなかった。そんな中、2017年、ついに柴田准教授らは、CRISPR-Cas9がDNAを切断する瞬間をリアルタイムで可視化することに成功した [4]。

関連研究において、柴田准教授は、非常に長いAFM探針(約3マイクロメートル)を開発し、AFMのカンチレバーと細胞の衝突を軽減し、生きた哺乳類細胞やラット海馬ニューロンの活動に伴う形態変化をナノスケールで撮影することに成功した。[5]。

「私たちは、この高速AFMを広くバイオ応用研究へ適用し、現代の生命科学において、注目度の高いタンパク質や、がんに関わるタンパク質のはたらく姿を可視化しようと試みています。また、現在は高速AFMの基板上に置かれた精製タンパク質の動態を観察していますが、できるだけ細胞内の環境を再現した条件で観察する工夫や、様々なタンパク質が混在する中で、個々のタンパク質の振る舞いを同定することが今後の重要な課題です。それには、高速AFMだけでなく、光学顕微鏡といった他の技術と組み合わせることが必要です」と、柴田准教授は語る。

CRISPR-Cas9によるゲノム編集の瞬間

ラット海馬ニューロン

 

 

 

 

 

 

 

研究ハイライト

注目すべき論文として、「高速原子間力顕微鏡によって可視化されたCRISPR-Cas9の実空間・実時間ダイナミクス」(Nature Communications)[4]、および、「生細胞をナノメートルスケールでイメージングする長探針高速原子間力顕微鏡」(Scientific Reports)[5] があります。

 


CRISPR-Cas9の高速AFM観察

 

生細胞観察用HS-AFMの探針と光学系
a  探針のSEM像
b  生細胞観察用HS-AFMの光学系
c  COS-7細胞の蛍光画像。白枠はHS-AFMの走査範囲を示す。

 

参考文献

  1. T. Ando, et al., “A high-speed atomic force microscope for studying biological macromolecules”, PNAS, 98, 12468-12472, (2001); https://doi.org/10.1073/pnas.211400898
  2. N. Kodera et al. “Video imaging of walking myosin V by high-speed atomic force microscopy”, Nature, 468, 72-76, (2010).
  3. M. Shibata et al., “High-speed atomic force microscopy shows dynamic molecular processes in photoactivated bacteriorhodopsin”, Nature Nanotechnology 5, 208–212, (2010).
  4. M. Shibata et al., “Real-space and real-time dynamics of CRISPR-Cas9 visualized by high-speed atomic force microscopy”, Nature Communications, 8, 1430 (2017).
  5. M. Shibata, et al, “Long-tip high-speed atomic force microscopy for nanometer-scale imaging in live cells”, Scientific Reports, 5, 8724, (2015).

 

関連情報

柴田幹大
https://ridb.kanazawa-u.ac.jp/public/detail.php?id=4506

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