金沢大学 ナノ生命科学研究所

~高速原子間力顕微鏡の威力~ 世界初!マイコプラズマの滑走運動における分子モーター の動きをナノレベルで検出!

<本研究のポイント>

◆最小細胞である「マイコプラズマ・モービレ」の分子モーターの動きを世界で初めて検出。

◆マイコプラズマの滑走運動時の動きを捉えた世界初の研究。

◆ナノスケールのデバイスや医薬品を開発するための基礎となる。

 

<概 要>

大阪市立大学 大学院理学研究科の宮田 真人(みやた まこと)教授らの研究チームは、金沢大学ナノ生命科学研究所の古寺 哲幸(こでら のりゆき)教授と安藤 敏夫(あんどう としお)特任教授の研究チームと共同で、最小の細菌である「マイコプラズマ・モービレ」が滑走するための分子モーターの動きを検出することに世界で初めて成功しました。この発見は、ナノスケールのデバイスや医薬品の開発への応用が期待されます。
本研究成果は、2021年5月28日(金)19時(日本時間)に、米国微生物学会オンライン誌である『mBio』に掲載されました。

 

<今回の発見>

マイコプラズマは、菌体の片側に小さな突起“接着器官”を形成し、この突起で宿主組織の表面にはりつき、はりついたまま“滑走運動”を行います。滑走運動時にはATP1合成酵素から進化した特殊な分子モーターが細胞内部で力を発生していることが示唆されていましたが、その動きが捉えられたことはありませんでした。今回、最先端技術である高速原子間力顕微鏡(高速AFM)を用いることで、滑走の分子モーターの動きをナノレベルで細胞外から検出することに成功しました。

1ATP…ミトコンドリア内で生成される生体内のエネルギーの貯蔵・供給・運搬を仲介している重要な物質。

 

<研究者からのコメント>

マイコプラズマ・モービレの滑走運動研究は、1997年に始めた私のライフワークです。現在ではタンパク質の機能や、細胞の進化を深く理解するための重要なテーマになっていると自負しています。これまでに滑走の分子モーターの構造を明らかにしてきましたが、今回の研究でその動きを観察することに成功しました。

理学研究科 宮田 真人教授

<研究の内容>

本研究では、マイコプラズマを生きたままガラスに固定し、高速AFMの細い針で細胞の表面を軽くたたきながら探ることにより、分子モーターの構造をリアルタイムにビデオに記録しました。
さらに得られたビデオ画像に隠された信号を計算によって抽出することで、分子モーター粒子がATPを加水分解して力を発生する際の動きをナノレベルで追跡することに成功しました。その結果、鎖状に連なったモーター粒子が、細胞進行方向に向かって右側に約9ナノメートル、細胞内側に2ナノメートル、300ミリ秒以内の時間に動くことを明らかにしました。このことは、他に類を見ない構造であるマイコプラズマの分子モーターがどのようなメカニズムで滑走運動を行っているか、そしてそのメカニズムがATP合成酵素のどのような性質から進化してきたかを説き明かす大きな手掛かりとなります。

可視化された細胞内部のモーター粒子とその動き
縦方向に並ぶ白い楕円がモーター粒子。緑の矢印は滑走運動の方向を示す。それぞれの粒子の重心の5秒間の動きが虹色の線で示されている。
©大阪市立大学 宮田真人

<今後の展開について>

ガラスに固定した細胞から膜を除去したり、単離した分子モーターを使ったりすることにより、空間的、時間的により高い分解能における解析を目指します。それとは別に単離した分子モーター構造を電子顕微鏡で解析することで、原子レベルの解像度で明らかにします。これらの情報を統合することで、滑走運動メカニズムを原子レベルで理解します。
滑走の構造とメカニズムを詳細に明らかにすることで、運動能の起源と動作原理に迫ることができ、ナノスケールのデバイスや医薬品を開発するための基盤になることが期待されます。

 

<補足>

■高速原子間力顕微鏡(高速AFM)

原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy: AFM)は、探針と試料の間に働く原子間力を元に、分子の形状をナノメートル(10-9 m)程度の高い空間分解能で可視化する顕微鏡。高速AFMは、金沢大学の安藤敏夫特任教授のグループによって開発された超高速で観察できるAFMで、サブ秒(~0.1秒)という時間分解能で、水溶液中にあるタンパク質などの生体分子や細胞の形状や動態をその周囲の環境を含めて観察することができる。

実験に使用した高速AFMの写真

 

<参考>

・動画 https://www.youtube.com/watch?v=-LRdogB3U8s

(マイコプラズマ・モービレの滑走の様子)

 

<掲載誌情報>

雑誌名:mBio(IF=6.8)

論文名:Movements of Mycoplasma mobile gliding machinery detected by high-speed atomic force microscopy

著者:Kobayashi K, Kodera N, Kasai T, Tahara YO, Toyonaga T, Mizutani M, Fujiwara I, Ando T, Miyata M.

URL:https://doi.org/10.1101/2021.01.28.428740

 

<共同研究・資金等>

本研究は、下記の計画研究の一部として行われました。

・科研費・基盤研究(A)「病原細菌、Mollicutes綱における3種の運動メカニズム」

・CREST研究・「合成細菌JCVI syn3.0B とゲノム操作を用いた細胞進化モデルの構築」

(研究代表:宮田真人)

https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/project/1111100/1111100_2019.html

 

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