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掲載日:2026.07.17 Research Highlights

光の色で細胞を“診る”新技術を開発! ― 生きた細胞内の分子凝縮体の状態を可視化、 がん化に伴う状態異常の検出にも成功 ―

 金沢大学新学術創成研究機構の羽澤勝治准教授、理工研究域物質化学系の添田貴宏教授、ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)のRichard W. Wong教授らを中心とする分野横断的な研究グループは、名古屋大学、台湾・国立成功大学、米国南カリフォルニア大学等と連携し、生きた細胞内の「分子凝縮体」の微小環境を、これまでにない明るさで可視化できる蛍光プローブ「PyLUMI(パイルミ)」の開発に成功しました。
 細胞の中では、タンパク質などの分子が膜を持たずに集まる「生体分子凝縮体(※1)」と呼ばれる構造体が形成され、遺伝子発現や細胞分裂などさまざまな生命活動を支えています。しかし、この凝縮体の内部がどのような環境にあるのかを、生きた細胞を壊さずに調べる手法はこれまで限られていました。本研究グループは、プローブ分子の構造を工夫することで、水中での発光効率を大幅に向上させた新しいプローブPyLUMIの開発に成功しました。
 PyLUMIを用いると、わずかな量・短い露光時間でも鮮明な画像が得られるため、細胞へのダメージを抑えながら、細胞分裂の起点となる「中心体(※2)」の状態を高精度にイメージングできることを示しました。その結果、中心体の状態が細胞周期の進行に伴って変化することを世界で初めて明らかにしました。さらに、がん細胞で見られる中心体の異常な増加を模した細胞でも、大きさだけでは分からない異常な状態を検出できることを示しました。
 これらの知見は将来、がんをはじめとする凝縮体の異常が関与する疾患の新たな診断指標や創薬支援技術に活用されることが期待されます。
 本研究成果は、2026年7月16日(日本時間午後11時00分)、国際学術誌『Advanced Science』のオンライン版に掲載されました。

【研究の背景】
 核小体やストレス顆粒、中心体など、細胞内には膜を持たずに特定の分子が集まってできる「生体分子凝縮体」が数多く存在し、遺伝子発現などの生命現象を支えています。近年、こうした凝縮体の“状態異常”が老化や疾患に関与することが分かってきましたが、凝縮体内部の粘度や極性といった微小環境を、生きた細胞を壊さずに定量する手法は限られていました。本研究グループはこれまでに、2つのピレン分子の発光比を指標とする「レシオメトリック蛍光プローブ」(※3)の第一世代(Pyr-A)を報告していました(iScience, 2021※4)。しかし、水中での発光効率が低く、生細胞内での高精度なイメージングには改良の余地がありました。

【研究成果の概要】
 本研究グループは、2つのピレン分子をつなぐ連結部(リンカー)の構造を系統的に変化させた6種類の類縁化合物を合成し、水中での発光効率と発光強度比(E/M比※5)の応答性を比較しました。その結果、従来のPyr-Aを上回る発光効率と明瞭なE/M比の応答を両立する化合物を見出し、これを新規蛍光プローブ「PyLUMI」と命名しました。PyLUMIは、人工凝縮体(液滴)の内部を1画素単位で解析したところ、これまで捉えられていなかった微小環境の不均一性を可視化することに成功しました。さらに生きた細胞では、従来のPyr-Aの10分の1の濃度・露光時間という低負荷な条件で、細胞分裂の起点となる「中心体」の凝縮体を鮮明にイメージングできることを実証しました。その結果、中心体の物理化学的な状態が細胞周期の進行に伴って変化する様子を捉えることに成功しました。加えて、がん化に伴って生じる「中心体増幅(PLK4過剰発現モデル)」を解析したところ、増幅した中心体は大きさに違いが見られないにもかかわらず、PyLUMIのE/M比だけが有意かつ持続的に上昇していることを発見しました。これは、従来の大きさの情報だけでは判別できなかった中心体の異常な状態を、新しい指標で検出できることを示す成果です。

図. PyLUMIによる細胞内環境の可視化とがん細胞診断への応用
2つのピレン分子の会合発光(E)と単独発光(M)の強度比(E/M比)を画素ごとに色分けすることで、生体分子凝縮体内部の粘度・極性を可視化できる。正常な細胞(上)に比べ、がん化を模した細胞(下)ではE/M比が全体的に上昇しており、大きさだけでは分からない細胞の異常状態を光の色比から検出できる。                                       

【今後の展開】
 本研究により、生きた細胞を傷つけることなく、生体分子凝縮体やオルガネラの状態を光で定量的に可視化する新技術が確立されました。今後、中心体以外のさまざまな凝縮体構造への応用や多重染色による計測拡張を進めることで、がんや神経変性疾患など凝縮体の異常が関わる疾患の病態解明や、新たなバイオマーカー・創薬支援技術の開発への貢献が期待されます。

用語解説

※1 生体分子凝縮体
タンパク質や核酸などの生体分子が、膜を持たずに液−液相分離(LLPS)と呼ばれる現象によって局所的に濃縮・集合してできる構造体のこと。核小体、ストレス顆粒、中心体などが代表例。
※2 中心体(セントロソーム)
細胞内で微小管の形成を統御する構造体で、細胞分裂時に紡錘体形成の起点となる。がん細胞ではしばしば数が異常に増加(中心体増幅)しており、染色体不安定性やがんの悪性化との関連が指摘されている。
※3 レシオメトリック蛍光プローブ
2つの異なる発光シグナルの強度比(レシオ)を指標として計測する蛍光プローブ。プローブの濃度分布や励起光の強さのばらつきなどの影響を受けにくく、細胞内の微小環境変化を精度良く検出できる。
※4 iScience, 2021
M. Hazawa et al. A light-switching pyrene probe to detect phase-separated biomolecules. (2021) iScience, 24, 102865. (DOI: 10.1016/j.isci.2021.102865)
※5 E/M比
エキシマー/モノマー発光比。ピレン分子が単独で発する「モノマー発光」と、2つのピレン分子が接近・会合した際に生じる「エキシマー発光」との強度比のこと。プローブ濃度や励起光強度の影響を受けにくく、周辺の粘度・極性といった微小環境を反映する内部標準的な指標として利用できる。

掲載論文情報

論文タイトル
A Bright Ratiometric Dipyrene Probe for Functional Imaging of Condensate Microenvironments in Living Cells (生細胞内の凝縮体微小環境を機能的にイメージングする高輝度レシオメトリック・ジピレンプローブ)
著者
Koki Matsumoto, Sora Kitai, Yoshio Nishiyama, Shogo Amemori, Kei Makiyama, Dini Kurnia Ikliptikawati, Kentaro Ohira, Yuta Kozuka, Maho Tobita, Shih-Cheng Chen, Chien-Hung Yu, Wei-Min Liu, De-Chen Lin, Motohiro Mizuno, Kazuma Ogawa, Koichi Ogami, Kenji Takahashi, Hiroshi I Suzuki, Richard W. Wong, Takahiro Soeta, Masaharu Hazawa (松本晃希、北井大空、西山嘉男、雨森翔悟、牧山桂、Dini Kurnia Ikliptikawati、大平健太郎、小塚祐太、飛田真歩、Shih-Cheng Chen、Chien-Hung Yu、Wei-Min Liu、De-Chen Lin、水野元博、小川数馬、尾上耕一、高橋憲司、鈴木洋、Richard W. Wong、添田貴宏、羽澤勝治)
掲載誌
Advanced Science
掲載日
2026.07.16
DOI
10.1002/advs.76419
URL
https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.76419

Funder

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)(課題番号:JP23kk0305026)、日本学術振興会(JSPS科研費:JP22H02209、JP23K27544)、JKA、金沢大学「新学術創成研究機構・機構外連携研究推進費」、金沢大学「新学術創成研究機構・異分野融合研究推進費」、金沢大学「自己超克(JIKO-CHOKOKU)」プロジェクト、興和生命科学振興財団、中冨健康科学振興財団、ノバルティス科学振興財団、中谷医工計測技術振興財団の支援を受けて実施されました。