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掲載日:2023.09.28 Research Highlights

Met受容体が鍵 上皮細胞再生と抗ウイルス応答における二重の役割を発見!

金沢大学がん進展制御研究所/ナノ生命科学研究所の今村龍助教(研究当時)・酒井克也准教授らのグループは,Met受容体(※1)上皮細胞(※2)の再生に加えて,抗ウイルス免疫応答にも不可欠であることを明らかにしました。この研究成果は,がん進展制御研究所の佐藤拓輝特任助教,ドミニク・チン・チェン・ブーン准教授,ナノ生命科学研究所の松本邦夫教授,医薬保健研究域保健学系の白崎尚芳助教,本多政夫教授,同医学系の倉知慎教授との共同研究によるものです。

上皮組織は,ウイルスなどの病原体に対する防御の最前線に位置し,パターン認識受容体(※3)によってウイルスRNA等を検出しサイトカイン(※4)を産生することにより,自然免疫を活性化してウイルスを排除します。本研究では,上皮細胞の生存,増殖,再生に重要な役割を持つことが知られているMet受容体が,ウイルスRNA検出後の自然免疫の活性化にも必要であることを明らかにしました。この発見により,上皮組織の再生と抗ウイルス免疫応答の両方においてMet受容体が鍵を握っていることが明らかとなり,上皮組織の再生とウイルス感染に対する統合的な理解が深まることが期待されます。

本研究成果は,2023年9月25日午後3時(米国東部時間)に国際学術誌『Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)』のオンライン版に掲載されました。

研究の背景

ウイルスに感染した上皮細胞は,ウイルスRNAをパターン認識受容体として機能するレチノイン酸誘導性遺伝子I(RIG-I)や黒色腫分化関連遺伝子5(MDA5)によって検出します。ウイルスRNAを検知したRIG-IやMDA5は,ミトコンドリア外膜上のシグナル伝達アダプターであるミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達タンパク質(MAVS)を凝集させ,シグナル複合体を形成します。この過程により,抗ウイルス性(I型インターフェロン)および炎症性サイトカインが産生され,その結果,自然免疫応答が活性化することにより,ウイルスが排除されます。一方で,Met受容体は,主に上皮細胞で高発現する膜貫通型チロシンキナーゼ受容体であり,上皮細胞の生存,増殖,再生において重要な役割を果たします。しかし,上皮細胞におけるMet受容体と抗ウイルス応答の直接的関連は不明でした。

研究成果の概要

本研究において,上皮細胞におけるウイルスRNAによるRIG-IおよびMDA5を介した抗ウイルス性・炎症性サイトカイン産生の誘導に,Met受容体が必要であることを発見しました。Met受容体による上皮細胞の再性能は,Met受容体チロシンキナーゼ活性に依存していますが,Met受容体の抗ウイルス作用にはチロシンキナーゼ活性は必要なく,Met受容体細胞内の末端部分がミトコンドリア外膜上のMAVSと相互作用し,MAVSシグナル複合体の形成を促進しました。これらの結果は,Met受容体がキナーゼ活性に依存しない新機構によって,抗ウイルス免疫応答を活性化するということ,そして上皮細胞の再生と抗ウイルス応答という二重の役割を果たすことを示唆しています。

今後の展開

Met受容体は,ウイルスRNAの検出に関与するRIG-IとMDA5という二つのパターン認識受容体に共通した下流メカニズムに関連しています。RIG-IとMDA5は,C型肝炎ウイルス,インフルエンザウイルス,SARS-CoV-2などのRNAウイルスに対する免疫応答において重要な役割を果たしており,本研究の知見は,これらのRNAウイルスに対する治療薬の開発に役立つことが期待されます。

 

図: Met 受容体の二重の役割: 上皮細胞の再生(左)と抗ウイルス反応(右)
Met 受容体は,リガンド HGF によって細胞内シグナルを活性化し,上皮細胞の増殖や生 存を促進して再生を促します(左)。この研究では,ウイルス RNA を認識する RIG-I や MDA5 が MAVS を凝集させ,炎症性及び抗ウイルス性サイトカインの産生を誘導するシ グナル複合体を形成するために,Met 受容体と MAVS の相互作用が必要であることを明 らかにしました(右)。

 

用語解説

※1 Met受容体
細胞膜を貫通するタンパク質で,HGF(肝細胞増殖因子)に対する受容体として,本受容体が持つキナーゼ活性を介して,上皮組織を含む各種組織や臓器の再生・修復を担っています。
※2 上皮組織
上皮組織は,体,体腔,臓器などの表面を覆う細胞から構成される組織です。上皮細胞は,互いに密に接着することで薄いシート状の細胞層を形成し,これによって体や臓器を外部から遮断し,病原菌の侵入や物質の漏出を防ぎます。
※3 パターン認識受容体
パターン認識受容体とは,細胞内で病原体由来の分子パターンを認識するための特別な受容体の総称です。これらの受容体は,自然免疫において重要な役割を果たします。
※4 サイトカイン
サイトカインは,免疫細胞や特定の細胞から分泌されるシグナル伝達分子の一群です。これらの分子には,インターロイキン-1(IL-1),IL-6,IL-12,IL-18,腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α),インターフェロンアルファ(IFN-α)やガンマ(IFN-γ)などが含まれており,自然免疫反応の媒介において重要な役割を果たします。

掲載論文情報

論文タイトル
Met Receptor is Essential for MAVS-Mediated Antiviral Innate Immunity in Epithelial Cells Independent of its Kinase Activity
著者
Ryu Imamura*, Hiroki Sato, Dominic Chih-Cheng Voon, Takayoshi Shirasaki, Masao Honda, Makoto Kurachi, Katsuya Sakai*, and Kunio Matsumoto * Equally contributed.
掲載誌
Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)
掲載日
2023.09.25
DOI
10.1073/pnas.2307318120 
URL
https://doi.org/10.1073/pnas.2307318120

Funder

本研究は,文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI),日本学術振興会科学研究費助成事業(挑戦的研究開拓: 21K18250,基盤研究B: 19H03499,基盤研究C: 20K06553, 22K07209),公益財団法人喜(き)・榮(えい)・音與(おとよ)助成金の支援を受けて実施されました。