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掲載日:2022.07.21 Research Highlights

高分子の結晶構造が現れる臨界長を決定 ~結晶構造から高分子と小分子の境界が見えた~

ポイント
  • 化学的に純粋な単分散ポリケトンの網羅的な結晶構造解析を達成。
  • 小分子的な結晶化と高分子的結晶化の境界を観測。
  • 繰り返し単位が5つから高分子的結晶構造が現れることを解明。

概要

北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)、同大学院工学研究院の猪熊泰英准教授、金沢大学ナノマテリアル研究所(NanoMaRi)・ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の淺川雅准教授らの研究グループは、単分散ポリケトンを用いて小分子化合物と高分子化合物の境界にあたる分子長を結晶構造の面から決定することに成功しました。

高分子化合物はプラスチックなどに使われる有機化合物で毎年大量に生産されています。一般に高分子化合物は、同じ繰り返し単位を持ちながらも長さの異なる有機化合物の集合体として生産・利用されています。一方、同じ有機物でも、分子量が小さい小分子化合物は長さや分子量が決まった純粋な化合物として薬剤など全く違った用途に使われることが多いです。一つの小分子を繰り返し単位として数多く連結すれば高分子化合物が得られますが、化合物の性質として高分子と小分子の明確な境界が何個小分子を連結した所で現れるのかは多くの高分子化合物において未知です。

今回、猪熊准教授らはアセチルアセトン誘導体を繰り返し単位に持つポリケトン化合物を用いて、結晶構造の観点から高分子と小分子の境界にあたる長さ(臨界長)を決定することに成功しました。一般に、小分子では僅かな長さの違いであっても異なる結晶構造を取ることが知られていますが、十分に長い高分子化合物では長さに依存せず共通の結晶構造が現れてきます。猪熊准教授らは、精密な有機合成法を用いて繰り返し単位が2~20個までの異なる長さを持つポリケトンを純粋な化合物として作り出し、それぞれの結晶構造を解析しました。そして、繰り返し単位5個という非常に短い領域から長さに依存しない螺旋型の結晶構造が現れることを突き止めました。この臨界長以上の長さをもつ化合物では、異なる長さが混ざっていても同様な結晶構造、すなわち高分子的な結晶構造をとることが分かりました。

高分子化合物における臨界長は化合物の性質を理解する上で非常に重要です。今回のポリケトンでは、繰り返し単位が2~4個までは融点が不規則な変化をするのに対し、5個以上では繰り返し単位の個数に応じて単調に融点が上昇するという特徴がありました。ここに臨界長の情報を持ち込むことで、不規則な変化が小分子的な結晶構造の違いに由来することが明確に説明されました。

なお、本研究成果は、2022年7月21日(木)公開のChemical Science誌にオンライン掲載されました。また、本論文はOutside front coverに採択されています。

本研究で決定した結晶構造が変化する臨界長N

本研究で決定した結晶構造が変化する臨界長N

背景

樹脂やプラスチックなどに代表される高分子化合物は、我々の生活及び身の回りでの生態系においても数多く利用されています。グルコースのような小分子有機化合物を出発化合物として縮合や重合反応を行うことで、数百〜数万の同じ繰り返しユニット及び分子量が数万以上で構成された長さの異なるセルロースが得られます。分子鎖長や分子量、密度の違いは同じ構成要素であるにも関わらず高分子材料の性能に対して大きい影響を与えます。一方で、小分子化合物は構成原子の種類や数、分子の長さ、分子量が一定であり、調味料や薬剤などの全く違った用途に使われることもあります。単一の小分子化合物を数多く連結して、分子鎖長及び分子量が一定に制御された単分散高分子を得ることも可能であり、 その鎖長に関連した凝集性や結晶性に着目した研究も報告されています。一般的に、小分子化合物では長さに応じて特異的な結晶構造を示しますが、高分子化合物は異なる分子鎖長でも互いに類似した構造で結晶化することが多いことが知られています。しかしながら、小分子を何個連結した場合に得られた単分散化合物が高分子もしくは小分子化合物としての性質を示す境界長については明らかになっていませんでした。

研究手法

研究グループは、アセチルアセトン誘導体を繰り返し単位とするポリケトン化合物(カルボニルひも*1)を用いることで、分子鎖長を精密に制御・伸長することが可能な単分散ポリケトン化合物の合成を達成しました。その化合物の高い結晶性を利用して、結晶化による結晶構造・パッキング構造の変化及び融点などの物理的性質の変化から小分子と高分子化合物の境界を明らかにしました。

研究成果

研究グループは、段階的な有機合成手法を活用することでアセチルアセトン誘導体を繰り返しユニットとする単分散ポリケトンの2~10量体の合成に成功し、最大20量体(分子量: 約2500程度)まで伸長させた単分散ポリケトンの合成についても達成しました(図1)。構造を明らかにするために単結晶構造解析を行ったところ、4量体までの単分散ポリケトンはそれぞれ相関がない固有の結晶構造配列を組んでいるということが分かりました(小分子的な結晶構造)。一方で、5量体以降では分子内及び分子間での水素結合による影響を受けて、螺旋構造を維持したまま分子鎖長が伸長しているということも確認されました(高分子的な結晶構造)。単分散ポリケトンの5量体が高分子結晶の特性を示す臨界長であることが明らかとなりました(図2)。さらに、粉末X線回折測定により詳細な結晶状態での検討を試みた結果、小分子化合物に対応する2~4量体ではそれぞれの化合物で全く異なる回折パターンが観測されました。5量体以降では類似の回折パターンが得られており、共通の結晶構造配列を保持した高分子結晶の特徴が確認されています。原子間力顕微鏡(AFM)画像の解析により8量体の結晶状態での全長サイズは約3.4 nmであることが分かっています。小角X線散乱解析(SAXS)による散乱パターン及び量子化学計算で推測された分子構造の結果からも同様の長さを持つことが確認されており、分子鎖長の伸長に伴い全長サイズも同様に長くなることが確認されました。

示唆走査熱量計(DSC)によって単分散ポリケトンの熱的挙動を検討した結果、臨界長の5量体以上では結晶構造及び結晶パッキング構造が類似しているため分子鎖長の伸長に応じて融点が単調に増加するような挙動が確認されています(図3)。一方で、小分子化合物(2~4量体)ではそれぞれの異なる結晶構造に由来して、融点と構成ユニット数との間に規則性は観測されませんでした。小分子結晶と高分子結晶の結晶的性質の違いが熱的な挙動にも大きな影響を与えることが明らかとなりました。

今後への期待

本成果での分子鎖長・分子量が制御された単分散ポリケトンを利用して更なる物理的性質の解明が期待されます。さらに、小分子と高分子の異なる特性を活かした材料応用検討も可能となり、熱に対する耐久性評価などに対して効果的な解釈を与えることが期待されます。単分散ポリケトンの分子末端を異なる官能基に変換することも可能であるため、金属イオンを介したネットワーク分子の形成も期待されます。

謝辞

本研究は文部科学省・日本学術振興会科学研究費助成事業「挑戦的研究(萌芽)」(20K21214、 21K18970)、「基盤研究(B)」(22H0205802)、「若手研究」(21K14597)、「新学術領域研究 (ソフトクリスタル)」、「特別研究員奨励費」(21J1122801、 21J20973)、JST 創発的研究支援事業(JPMJFR211H)、化学旭硝子財団「若手継続グラント」、文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の支援のもとで行われたものです。

本研究に係る論文はThe Royal Society of Chemistryの査読論文としてChemical Scienceに全文公開されており、無料で閲覧することが可能です[論文リンク]。

This research is published in Chemical Science, the Royal Society of Chemistry’s peer-reviewed flagship journal, and is free to read [link to the article]

参考図

図1.アセチルアセトン(単量体)を出発原料とする単分散ポリケトン(2~20量体)の合成。高分子結晶性を示す臨界長である5量体の合成経路。

図1.アセチルアセトン(単量体)を出発原料とする単分散ポリケトン(2~20量体)の合成。高分子結晶性を示す臨界長である5量体の合成経路。

図2.小分子結晶として特有な結晶構造を示す単分散ポリケトンの2~4量体及び高分子結晶として類似な結晶構造を示す5、6量体。

図2.小分子結晶として特有な結晶構造を示す単分散ポリケトンの2~4量体及び高分子結晶として類似な結晶構造を示す5、6量体。

図3.単分散ポリケトンの臨界長である5量体以上では分子鎖長の伸長に応じて融点が単調に増加。

図3.単分散ポリケトンの臨界長である5量体以上では分子鎖長の伸長に応じて融点が単調に増加。

用語解説

※1 カルボニルひも
柔軟な炭化水素鎖に多数のカルボニル基が結合した有機化合物。様々な分子の形を作ることができる「魔法のひも分子」として猪熊准教授らが2018年に開発した。

掲載論文情報

論文タイトル
Determination of the critical chain length for macromolecular crystallization using structurally flexible polyketones(構造的に柔軟なポリケトンを利用した高分子結晶化における臨界長の決定)
著者
井手雄紀1、眞部夢大2、稲葉佑哉2、木下雄介1、Pirillo Jenny1、土方 優1、米田友貴1、Kilingaru I. Shivakumar1、田中佐紀3、淺川 雅3、猪熊泰英1、2
(1北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)、2北海道大学大学院工学研究院/総合化学院、3金沢大学ナノマテリアル研究所(NanoMaRi)・大学院自然科学研究科・ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI))
掲載誌
Chemical Science
掲載日
2022.07.21
DOI
10.1039/D2SC03083G