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掲載日:2021.06.29 Research Highlights

エクソソーム分泌の促進剤・抑制剤を同定

概要

金沢大学ナノ生命科学研究所の華山力成教授,吉田孟史特任助教,大学院医薬保健学総合研究科医学博士課程医学専攻の馬雲飛大学院生らの研究グループは,日産化学株式会社と共同で細胞外小胞エクソソームの分泌を促進または抑制する低分子化合物を新たに同定しました。

エクソソームは,ほぼ全ての種類の細胞が分泌する小型(直径50~150 nm 程度)の膜小胞で,血液や尿・髄液・涙・唾液などの体液や細胞培養液中に数多く存在しています。エクソソームは分泌細胞由来の脂質・蛋白質・RNA などを他細胞へと受け渡すことで,免疫制御や神経変性,癌進展などさまざまな生理現象や病気の発症に関与すると考えられています。このことから,エクソソームを標的にした,あるいは,エクソソームを用いた予防・診断・治療法の開発が大きく期待されます。

今回,本研究グループは,エクソソーム結合分子TIM4を用いた高感度検出法を用いて,高効率に細胞から分泌されるエクソソーム量の増減を測定する方法を開発し,1600種類の既存薬化合物ライブラリーからエクソソームの分泌を促進する化合物8種類,抑制する化合物1種類を新たに同定しました。

今後,エクソソーム分泌促進剤は,組織の修復や再生に関わる間葉系幹細胞由来エクソソームなどの善玉エクソソームの産生増加に,エクソソーム分泌抑制剤は,癌の転移や増殖に関わる癌細胞由来エクソソームなどの悪玉エクソソームの産生抑制へと応用されることで,エクソソーム創薬の実現を加速することが期待されます。

本研究成果は,2021年6月29日(英国時間)に英国科学誌『Scientific Reports』のオンライン版に掲載されました。

図1.TIM4を用いた高感度・高効率エクソソーム測定法

TIM4は,エクソソームの膜表面に露出しているリン脂質ホスファチジルセリンと特異的に結合することで,高感度にエクソソームを捕捉する。TIM4に捕捉されたエクソソームの量は,エクソソームの特異的表面マーカー(CD9,CD63など)に対する1次抗体と,その抗体を検出する2次抗体を用いて簡便に測定可能である。

図2.細胞に各化合物を加えた後のエクソソーム分泌量の比較

癌細胞株に各化合物を取り込ませてから24時間以内に分泌されるエクソソーム量をCD9またはCD63に対する1次抗体を用いて比較した。コントロール(DMSO)と比較して,AA2がエクソソームの分泌を抑制(a),GossypolやObatoclaxなどがエクソソームの分泌を促進(b)することが判明した。

研究者情報

華山 力成
吉田 孟史

掲載論文情報

論文タイトル
Identification of small compounds regulating the secretion of extracellular vesicles via a TIM4-affinity ELISA(TIM4を用いたELISA法による細胞外小胞の分泌を制御する低分子化合物の同定)
著者
Yunfei Ma, Takeshi Yoshida*, Kazutaka Matoba, Katsuhiko Kida, Rito Shintani, Yingshi Piao, Jingchun Jin, Taito Nishino, & Rikinari Hanayama*
掲載誌
Scientific Reports
掲載日
2021.06.29
DOI
https://doi.org/10.1038/s41598-021-92860-2

Funder

本研究は科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)「微粒子による生体応答の相互作用の解明と制御」(研究代表者:華山力成,課題番号:JPMJCR18H4),文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI),および日産化学株式会社からの共同研究費の支援を受けて実施されました。