肺がんが分子標的薬に抵抗するメカニズムを新たに解明!
金沢大学がん進展制御研究所/ナノ生命科学研究所の矢野聖二教授,がん進展制御研究所の谷本梓助教,国立がん研究センター東病院呼吸器内科の松本慎吾医長,後藤功一科長らの共同研究グループは,分子標的薬(※1)にさらされた肺がん細胞が,TP53遺伝子(※2)の変異を有することにより,抵抗し生き延びることを初めて明らかにしました。
研究の背景
肺がんは,年間約8万人が死亡する我が国のがん死亡原因第一位のがんです。日本人の肺がんの約4%に,ALKという遺伝子が他の遺伝子と融合することを原因とする肺がん(ALK融合遺伝子陽性肺がん)が存在します。ALKは融合遺伝子となることで強い生存シグナルを発するようになるため,ALKの機能を抑えるアレクチニブ(※5)という分子標的薬が有効です。アレクチニブは,約9割のALK融合遺伝子陽性肺がんに劇的に効いて腫瘍を一旦小さくしますが,一部の患者では効果が持続せず早期に再発することが問題になっています。
一方で,海外の研究グループは,がん抑制遺伝子であるTP53の変異を有する患者において,ALKに対する分子標的薬の効果が低下することを報告しておりましたが,未治療の症例におけるALK阻害薬のTP53に対する影響や実験レベルでの検討が行われておりませんでした。
研究成果の概要
本研究では,TP53変異のALK融合遺伝子陽性肺がんについて解析し,分子標的薬アレクチニブにさらされた腫瘍細胞が抵抗するメカニズムを再現し,その抵抗性を解除する治療法を新たに見いだしました。
国立がん研究センター東病院が中心となり形成する肺がん遺伝子診断ネットワーク「LC-SCRUM」のデータベースを活用し,日本人におけるTP53変異のALK融合遺伝子陽性肺がんのデータを解析しました(図1)。その結果,ALK融合遺伝子陽性肺がん症例の25%にTP53の変異がありました。さらに,ALK阻害薬未治療のTP53野生型(変異がない)と変異型の患者群に分けて,アレクチニブの治療効果を比較したところ,変異型では明らかに治療効果の持続期間が短いことが明らかとなりました(図2)。
次に,変異型のALK融合遺伝子陽性肺がんに対して,野生型TP53を導入したところ,アレクチニブに対する感受性が増強したことから,TP53の活性がアレクチニブの効果に強く関与することが分かりました。
がん抑制遺伝子であるTP53は,がん細胞が治療を受けて細胞死となるアポトーシスを誘導する重要な遺伝子です。そのため,TP53が変異している場合においても,アレクチニブの効果が維持されるためにはTP53を介さない経路でのアポトーシスが必要と考えられました。そこで,着目したのがアポトーシスを促進するタンパクであるNoxa(※6) です。プロテアソームによって分解されるはずだったNoxaがプロテアソーム阻害薬によって蓄積することで,抗アポトーシス蛋白であるMcl-1(※7)に結合・阻害して強いアポトーシスを引き起こします(図3)。
今後の展開
本研究成果により,TP53変異の ALK融合遺伝子陽性肺がん患者に,治療当初からプロテアソーム阻害薬を分子標的薬に併用することで,腫瘍を縮小し,根治あるいは再発までの期間を劇的に伸ばすことが期待されます。
用語解説
掲載論文情報
- 論文タイトル
- Proteasome inhibition overcomes ALK-TKI resistance in ALK-rearranged/TP53 mutant NSCLC via Noxa expression (TP53変異を共発現するALK融合遺伝子陽性肺がんにおけるALK阻害薬耐性をプロテアソーム阻害薬がNoxaの発現上昇を介して克服する)
- 著者
- Azusa Tanimoto, Shingo Matsumoto, Shinji Takeuchi, Sachiko Arai, Koji Fukuda, Akihiro Nishiyama, Kiyotaka Yoh, Takaya Ikeda, Naoki Furuya, Kazumi Nishino, Yuichiro Ohe, Koichi Goto and Seiji Yano (谷本 梓,松本 慎吾,竹内 伸司,新井 祥子,福田 康二,西山 明宏,葉 清隆,池田 喬哉,古屋 直樹,西野 和美,大江 裕一郎,後藤 功一,矢野 聖二)
- 掲載誌
- Clinical Cancer Reasearch
- 掲載日
- 2020.12.11
- DOI
- 10.1158/1078-0432.CCR-20-2853
- URL
- https://clincancerres.aacrjournals.org/content/early/2020/12/11/1078-0432.CCR-20-2853
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