金沢大学 ナノ生命科学研究所

髙橋 康史

走査型電気化学顕微鏡SECM):タイムラプス化学マッピングと生細胞の同定

SECMにより生物学的過程において重要な役割を担う分子の定量化が可能に 

髙橋 康史、金沢大学ナノ生命科学研究所 准教授

「私は、化学マッピングを行うため、走査型イオン伝導顕微鏡(SICM)と、走査型電気化学顕微鏡(SECM)の融合技術の開発を行っています」と、高橋康史准教授は語る。「電子顕微鏡では乾燥した試料しか観察できませんが、私たちは生細胞の動く様子をイメージングしたいと思っています。そこで、ガラス製のナノピペット内にカーボン層を形成する方法でナノ電極を開発して、溶液中で生きた細胞上を走査し、化学物質分布をマッピングできるようにしました。この技術によって、分子を同定するのに重要な組織分布や化学的な情報を得ることができます」。髙橋准教授は、この研究に関して、インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者らと共同研究を行っている。

 

タイムラプス走査型イオン伝導顕微鏡(SICM
走査型イオン伝導顕微鏡(SICM)では、開口直径がナノメートルレベル(一般的には50~100 nm)のガラスピペットで、溶液中の生体試料の上を走査する。試料表面および界面のトポグラフィーと電荷分布は、ピペットの開口部と試料間のイオン電流の変動を分析することで可視化できる。「SICMの解像度は約20 nmです。高速化に成功し、1フレームの計測時間を30分から18秒に短縮できました。これは、従来のSICMシステムの100倍以上の速度です」と、高橋准教授は説明する。

SICMにFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)やパッチクランプによるシナプス前細胞のイオンチャネルの情報をリンクさせることで、心筋細胞表面の受容体の鮮明な画像を取得することも可能だ。

 

走査型電気化学顕微鏡(SECM
次に、SICMとは別のタイプの走査型プローブ顕微鏡である、走査型電気化学顕微鏡(SECM)について紹介する。SECMは、ガラスで被覆された金属ワイヤでできたマイクロ電極を探針に用い、試料表面を走査することで、試料表面の酸素濃度変動などの電気化学情報を取得できる。特筆すべきは、SECMによって電極の電流変化を計測して得られる生きた細胞の画像は、光学顕微鏡で得られる画像よりはるかに鮮明であるということだ。

「SECMは幅広い時間分解能を実現できます」と、高橋准教授は語る。「神経伝達物質をミリ秒レベルで計測しましたし、薬剤感受性検査中の細胞の呼吸活動を数十秒以上にわたって撮影することにも成功しました。さらに、何日もかかるタンパク質(酵素)の発現過程も可視化しました」。さらに、SECMは生物学的プロセスをイメージングするだけでなく、化学物質を細胞や生体分子に「運ぶ」ことによって様々な反応を引き起こすことも可能だ。

 

SECMのためのナノ電極の製作
高橋准教授らは、これまで電極の小型化に取り組んできた [1 – 3]。「現在、マイクロ電極はプラチナのワイヤをガラスに接合して作っています。そうすると、直径約20µmのプローブができます。我々は、SECM電極を製作するのに、ブタンガスを使っていました。そして、直径13 nmのカーボンナノ電極の作製に成功しました。大きな進歩だと言えるでしょう」。

SECM技術は、ラベルフリーの分子を用いて生物学的メカニズムを観察したり、観察中の分子を同定したり、神経学的プロセスにおけるシナプスの可視化を実現する際に有用と考えられる。

 

研究ハイライト 

特筆すべき成果として、「ナノスケール・ケミカルイメージングおよび表面・界面における局所的化学物質デリバリーのための多機能ナノプローブ」 [1]、および、「電圧切り替えモードの走査型電気化学顕微鏡を用いた生細胞の形状・電気化学的ナノスケール・イメージング」 [2] があります。

神経細胞のSECM画像[参照1]

 

参考文献

  1. Takahashi. et al. “Multifunctional Nanoprobes for Nanoscale Chemical Imaging and Localized Chemical Delivery at Surfaces and Interfaces”, Angew. Chem. Int. Ed. 50, 9638-9642 (2011).
  2. Takahashi, et. al., “Topographical and electrochemical nanoscale imaging of living cells using voltage-switching mode scanning electrochemical microscopy”, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 109, 11540 (2012).
  3. Zhou, Y.; Saito, M.; Miyamoto, T.; Novak, P.; Shevchuk, A. I.; Korchev, Y. E.; Fukuma, T.; Takahashi, Y., Nanoscale Imaging of Primary Cilia with Scanning Ion Conductance Microscopy. Chem. 2018, 90 (4), 2891-2895.

 

関連情報

髙橋 康史
https://ridb.kanazawa-u.ac.jp/public/detail.php?id=4462

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