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掲載日:2019.10.10 Research Highlights

ミトコンドリアへのタンパク質搬入口TOM複合体の精密構造と働く仕組みを解明

金沢大学医薬保健研究域保健学系の荒磯裕平助教(研究当時:京都産業大学タンパク質動態研究所研究員),ナノ生命科学研究所の安藤敏夫特任教授と京都産業大学,東京大学,産業技術総合研究所,宮崎大学,オーストラリア・モナシュ大学,ドイツ・フライブルグ大学の共同研究グループは,クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析法(※1)により,ミトコンドリア(※2)へのタンパク質搬入口として働くTOM複合体(※3)の精密構造を決定するとともに,TOM複合体を通過した前駆体タンパク質の出口が2つあることを発見しました。

ヒトや酵母などの真核生物の細胞内には,ミトコンドリアをはじめとする膜で仕切られた細胞内小器官が存在します。ミトコンドリアは細胞内で生命活動に必要なエネルギーを産生するため,ヒトではミトコンドリアが正常に機能することが健康につながり,ミトコンドリアの機能低下は老化やさまざまな病態と関連することが知られています。正常に機能するミトコンドリアを維持するためには,性質も機能も異なる1000種に及ぶタンパク質を、前駆体タンパク質(※4)という形で細胞質(外)からミトコンドリア内に膜を通して配送する必要があります。このミトコンドリアへのタンパク質搬入口として働くのが,複数のタンパク質が組み合わさってできたTOM複合体です。しかし,TOM複合体は高分解能の精密構造が決定されておらず,各タンパク質がどのように集合して複合体をつくり,各タンパク質がどのように前駆体タンパク質を効率良く外膜透過させるかなどの問題は未解決でした。

今回,本研究グループは,クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析法により,TOM複合体の精密構造を3.8Åの高分解能で決定しました。TOM複合体の全体構造は,各サブユニット2個ずつから成る2量体で,タンパク質の通り道である膜透過チャネルとなる円筒形のTom40(※5)同士の界面にTom22が2分子と脂質1分子が入り込んでいることが分かりました。また,タンパク質の膜透過チャネル内に,プレ配列(※6)を持つ前駆体タンパク質と持たない前駆体タンパク質専用の通り道と出口を別々に用意し,出口で待ち構える各輸送経路の下流の因子に前駆体タンパク質を受け渡すことで,性質も機能も異なる1000種に及ぶ前駆体タンパク質の外膜透過を効率良く行っていることが分かりました。

ミトコンドリアへのタンパク質搬入のメカニズムの解明により,ミトコンドリアへのタンパク質配送に関連する病気の治療法の開発や,ミトコンドリアへのタンパク質配送の効率を制御することで老化を防ぐなどの可能性が開けることが期待されます。

本研究成果は、2019年10月10日16時(英国時間)に英国科学誌「Nature」オンライン版に掲載されました。

図1. クライオ電子顕微鏡を用いて決定されたTOM複合体の構造
上段は決定構造の構造密度図。下段は構造をリボンモデルで見やすくしたもの。

図2. TOM複合体の2つの出口
2量体のうち,1つ分を外側から見たものと,内部側から見たもので示した。出口が2つあることが分かる。

用語解説

※1 クライオ電子顕微鏡による単粒子解析法
生体試料を液体窒素(-196℃)冷却下で急速凍結して電子線を照射し,生体分子を染色することなく電子顕微鏡で観察するクライオ電子顕微鏡法により,これまでの精密構造決定の主役であったX線構造解析には試料の結晶化が必須だったが,良質のデータの高感度取得法および大量の画像データから三次元構造を再構成する手法(単粒子解析法)の開発により,結晶化しない生体試料でも解像度3Å程度の構造を決定することができるようになった。この方法の進展により,これまで結晶化が困難であったタンパク質の巨大複合体や膜タンパク質の構造解析が急速に進むようになった。
※2 ミトコンドリア
酵母からヒトまで広く真核生物の細胞内に見られる必須の細胞内小器官。生命活動に必要なエネルギー(ATP)を酸素呼吸によって産生するほか,さまざまな物質の代謝やアポトーシス(細胞死)にも関わる。ミトコンドリアの機能低下や機能異常と,老化やがん,糖尿病,さまざまなミトコンドリア病との関連が分かっている。ミトコンドリアの機能を健全に保つことがヒトの健康に重要であることから,異常ミトコンドリアを除去する方法や健全なミトコンドリアを増やす方法の開発が注目されている。
※3 TOM(translocase of the mitochondrial outer membrane)複合体
酵母からヒトまで保存されているミトコンドリア外膜のトランスロケーター(膜透過装置)で,ほとんど全てのミトコンドリアタンパク質のミトコンドリアへの搬入口として働く。ミトコンドリア行きシグナルを認識する受容体,ミトコンドリアタンパク質前駆体の外膜透過を行う円筒形チャネルタンパク質のTom40を含む7〜8種類のサブユニットから構成される膜タンパク質複合体。
※4 前駆体タンパク質
ミトコンドリアタンパク質の大部分は,ミトコンドリアの外の細胞質気質「サイトゾル」で前駆体として合成される。前駆体はミトコンドリア行きシグナルが「プレ配列」としてN末端に付加されたタイプのものと,そうでないものがある。前者はミトコンドリア内でプレ配列が切断されて成熟体となって機能するが,後者はミトコンドリア内で特に配列が変化することなく機能できるようになる。
※5 Tom40
外膜でミトコンドリアタンパク質搬入(外膜透過)を担うTOM複合体の中心サブユニット。円筒形の「βバレル型」膜タンパク質で,円筒の内部を基質となる前駆体タンパク質が通過する。
※6 プレ配列
ミトコンドリアタンパク質の前駆体の7割はN端にプレ配列と呼ばれる余分な配列が付加されている。プレ配列はミトコンドリア行きシグナルとして機能し,TOM複合体の受容体サブユニットに認識される。

掲載論文情報

論文タイトル
Structure of the mitochondrial import gate reveals distinct preprotein paths
著者
Yuhei Araiso, Akihisa Tsutsumi, Jian Qiu, Kenichiro Imai, Takuya Shiota, Jiyao Song, Caroline Lindau, Lena-Sophie Wenz, Haruka Sakaue, Kaori Yunoki, Shin Kawano, Junko Suzuki, Marilena Wischnewski, Conny Schütze, Hirotaka Ariyama, Toshio Ando, Thomas Becker, Trevor Lithgow, Nils Wiedemann, Nikolaus Pfanner, Masahide Kikkawa & Toshiya Endo.
掲載誌
Nature
掲載日
2019.10.10
DOI
10.1038/s41586-019-1680-7
URL
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1680-7

Funder

This work was supported by JSPS KAKENHI to T.E. (15H05705 and 2222703), to K.I. (16K21680 and 18K11543), T.S. (19K16077 and 18KK0197), and to T.A. (26119003) and JST CREST grants to T.E (JPMJCR12M1) and to M.K (JPMJCR14M1), European Research Council (ERC) Consolidator Grant to N.W. (No. 648235), Deutsche Forschungsgemeinschaft Grants to T.B. (BE 4679/2-2) and N.P. (PF 202/9-1), and Germany’s Excellence Strategy to T.B., N.W. and N.P. (CIBSS – EXC-2189 – Project ID 390939984; GSC-4 Spemann Graduate School). The following grants are also acknowledged; a grant from Takeda Science Foundation (to T.E.), Platform Project for Supporting Drug Discovery and Life Science Research (Basis for Supporting Innovative Drug Discovery and Life Science Research (BINDS)) from AMED under grant numbers JP19am01011115 (to M.K.) and JP19am0101114 to K.I, and grants from the Ichiro Kanehara Foundation for the Promotion of Medical Sciences and Medical Care, Waksman Foundation of Japan, Tokyo Biochemical Research Foundation, Sumitomo Foundation, Naito Foundation, and Uehara Memorial Foundation (to T.S.), and the Australian Research Council Discovery Project DP160100227 (to T.L.). The Cryo-EM Facility in the University of Tokyo is acknowledged. Y.A. was supported by a Research Fellowship for Young Scientists from the Japan Society of the Promotion of Science (15J07687).

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