大腸がんの多様性が促進する転移機構を解明!
金沢大学ナノ生命科学研究所/がん進展制御研究所の大島浩子准教授,大島正伸教授の研究グループは,東京大学の宮園浩平教授,上田泰己教授との共同研究により,遺伝的な多様性を持ったがん細胞集団による転移メカニズムの解明に成功しました。
研究の背景
がん細胞は,遺伝子変異の繰り返しにより,次第に悪性化し,進展します。しかし,がん転移機構は遺伝子変異では説明されず,いまだ不明でした。一方で,がん患者の血中にはがん細胞塊(クラスター)が見つかっており,クラスターのまま遠隔臓器に到達して転移巣を形成する「ポリクローナル転移」機構が提唱されています。しかし,遺伝子変異や悪性度が異なるがん細胞の集団が,どのように転移巣を形成するのかは依然として不明でした。
研究成果の概要
研究グループでは,大腸がん発生と悪性化に重要な4種類のドライバー遺伝子(Apc(A),Kras(K),Tgfbr2(T),Trp53(P))の変異を,さまざまな組み合わせで導入した,腸管腫瘍由来オルガノイドを樹立しました(Sakai et al, Cancer Res, 2018)。これら4種類の変異を持つAKTP細胞は高い転移能を獲得し,1〜2種類の変異を持つA, AK, AT, AP細胞は非転移性のがん細胞です(図1)。それぞれを緑色および赤色蛍光で標識して,単独でマウス脾臓に移植すると,AKTP細胞だけが肝臓に転移巣を形成します(図2a)。興味深いことに,非転移性細胞とAKTP細胞を同時に脾臓へ移植すると,ATまたはAP細胞とAKTP細胞の双方から構成されるポリクローナル転移巣が肝臓に形成されました(図2b)。この結果は,非転移性がん細胞でも,転移性がん細胞と一緒にポリクローナル機構により転移し得ることを示します。
さらに,AKTP細胞単独による肝転移巣では,がん細胞が血管周囲の肝星細胞を活性化させて線維性の転移ニッチを形成することが分かりました(図3)。重要なことに,AKTP細胞が転移ニッチを形成した後でAP細胞を移植すると,非転移性のAP細胞単独でも微小転移巣を形成しました。この結果は,転移性がん細胞による転移ニッチ形成が,非転移性がん細胞の生存と増殖に関与する可能性を示しています。
今回の研究により,がん細胞クラスター内の転移性サブクローンが転移ニッチを形成することで,非転移性がん細胞を含んだポリクローナル転移巣を形成することがはじめて明らかになり,がん転移機構の理解に重要な知見が得られました(図4)。
今後の展開
本研究成果により,悪性がん細胞による転移ニッチ形成を阻害することで,がん細胞クラスターによる転移巣形成を抑制できる可能性が示されました。将来的に,大腸がんの肝転移に対する新規予防・治療薬の開発戦略に大きく貢献することが期待されます。
用語解説
掲載論文情報
- 論文タイトル
- Malignant subclone drives metastasis of genetically and phenotypically heterogenous cell clusters through fibrotic niche generation (悪性形質を獲得したサブクローンが線維性ニッチを形成して遺伝型および表現型の多様なクラスターの転移を引き起こす)
- 著者
- Sau Yee Kok, Hiroko Oshima, Kei Takahashi, Mizuho Nakayama, Kazuhiro Murakami, Hiroki, R. Ueda, Kohei Miyazono, Masanobu Oshima (コク・サウイ,大島浩子,高橋恵生,中山瑞穂,村上和弘,上田泰己,宮園浩平,大島正伸)
- 掲載誌
- Nature Communications
- 掲載日
- 2021.02.08
- DOI
- 10.1038/s41467-021-21160-0
- URL
- https://www.nature.com/articles/s41467-021-21160-0
Funder
本研究は,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)革新的がん医療実用化研究事業「大腸がん細胞の多段階悪性化が制御する微小環境形成ネットワーク機構の解明と新規予防治療戦略の確立」,および「大腸がん微小転移巣形成機構の理解による新規予防治療戦略の確立」(研究開発代表者 大島 正伸),独立行政法人日本学術振興会科学研究費助成事業(基盤研究(A)/基盤研究(B)),および文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の支援を受けて実施されました。
詳細はこちら