金沢大学 ナノ生命科学研究所

生越 友樹

超分子化学で生命科学を切り拓く-大環状ホスト分子を基にした超分子センサーの開発

柱型環状分子「ピラーアレーン」の発見により、ナノスケールでの分子認識とホストーゲスト化学が飛躍的に前進

生越 友樹、金沢大学ナノ生命科学研究所 特任教授・主任研究者/京都大学工学研究科 教授

大環状化合物は、環状構造を持つ有機化合物の総称で、「クラウンエーテル」(※1)などが知られている。この化合物は、分子認識を含む様々な可能性を秘めている。「大環状材料に関心を持つようになったのは、2008年の偶然の発見がきっかけでした」と生越友樹特任教授は語る。「当時研究していたフェノール樹脂の合成法を試していたとき、後に『ピラー[n]アレーン(nは繰り返し数を表す)』と名付けることになる、柱(ピラー)型のユニークな分子が形成されているのを発見しました[1]。私はナノ生命科学研究所において、この『ピラーアレーン』を、がん細胞を発見するための高解像度ナノプローブとして活用できないかと考え、研究を進めています」。

ピラーアレーンはベンゼン環(※2)が真横で連結している。そのため、典型的な環状化合物とは異なり、対称性の高い柱状の立体構造をしているのが特徴的だ(図1)。

2008年に生越特任教授がピラーアレーンの発見を報告してから、この分子に関連する論文が急増した。「中国には30を超える研究グループがあり、ヨーロッパには10あまりのグループがあります。アジアには私を含め約5グループが、米国にも約5グループあります。その中には、2016年にノーベル化学賞を受賞したストッダート教授も含まれています。いかにこの分野が今大変注目されていて、研究が活発に行われているかがお分かりいただけると思います。ピラーアレーン・コミュニティは拡大しており、2008年の論文[2]以降、査読付き論文は500を超えました」と生越特任教授は語る。

図1:2008年に生越特任教授が合成したピラーアレーン [1]

 

生越特任教授は、ナノ生命科学研究所において、細胞内の動態を観察できる顕微鏡の探針開発や、分子間相互作用に基づく特定分子のナノマッピングと捕捉、ゲスト・ホスト配列での分子設計、細胞内でのがん代謝物の分布、がん細胞発見を目的としたニコチンアミド・バイオマーカーの検出などを目指している。

 

【用語解説】

※1 クラウンエーテル
王冠のような形をした環状分子。環(わ)の中に金属イオンなどの物質を取り込むことができ、環のサイズによって取り込む物質を選択できる。1967年、米国デュポン社の化学者ペダーセンが発見し、1987年にノーベル化学賞を受賞。

※2 ベンゼン環
C6H6で表される炭化水素。6つの炭素が二重結合と単結合で繋がった正六角形の形をした分子。ピラーアレーンの「アレーン」はベンゼン環を表す。

 

研究ハイライト

生越特任教授らは、パラ位連結柱状分子のピラー[5]アレーンを初めて合成したと2008年に発表した[参考文献1及び図2]。具体的には、1,4-ジメトキシベンゼンとパラホルムアルデヒドを、ルイス酸触媒により反応させる手法により合成した。両端に反応性の高いヒドロキシ基がある分子は容易に機能化する。それをホストとして使用することにより、様々な応用展開の可能性が広がる。

図2:ピラー[5]アレーンの側面図(a)と上面図(b)

 

柱型大環状ホスト・ピラー[n]アレーンの基本特性及び潜在的応用法に関する総説[2]において、生越特任教授らはこの分野に新たに進出する研究者のために、ピラー[n]アレーン合成に関する詳細を明らかにしている。さらに、超分子ポリマーや電子材料などホスト・ゲスト化学分野への応用について展望を示している。

図3:ピラー[n]アレーンの特性と応用法に関する総説[2]

 

参考文献

  1. Tomoki Ogoshi, Suguru Kanai, Shuhei Fujinami, Tadaaki Yamagishi, and Yoshiaki Nakamoto, “para-Bridged Symmetrical Pillar[5]arenes: Their Lewis Acid Catalyzed Synthesis and Host–Guest Property”, J. Am. Chem. Soc. 130, 5022–5023, (2008).
    DOI: 10.1021/ja711260m
  1. Tomoki Ogoshi, Tadaaki Yamagishi, and Yoshiaki Nakamoto, “Pillar-Shaped Macrocyclic Hosts Pillar[n]arenes: New Key Players for Supramolecular Chemistry”, Rev. 116, 7937−8002 , (2016).
    DOI: 10.1021/acs.chemrev.5b00765

関連情報

生越 友樹
http://www.sbchem.kyoto-u.ac.jp/ogoshi-lab/ (研究室ウェブサイト)

 

*ジメトキシピラー[5]アレーンは、東京化学工業株式会社から市販されています。

東京化学工業株式会社
http://www.tcichemicals.com/ja/jp/index.html

ジメトキシピラー[5]アレーン
http://www.tcichemicals.com/eshop/ja/jp/commodity/D4471/

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