分子構造により細孔径を制御したカーボンを開発しました
京都大学 大学院工学研究科の生越 友樹 教授(兼 金沢大学 ナノ生命科学研究所 特任教授)、東北大学材料科学高等研究所の西原 洋知 教授(多元物質科学研究所を兼任)、岡山大学 異分野融合先端研究コアの仁科 勇太 研究教授らの研究グループは、焼成のみで分子レベルで細孔径が制御された多孔性カーボンを開発しました。これまで多孔性カーボンは、カーボン骨格をガスや薬品により破壊して細孔を形成する賦活法で主に合成されてきました。しかし賦活法では、材料調製時のカーボン骨格の構造変化が激しく元のカーボン骨格が残らない、分子レベルでの細孔制御は困難、再現性良く多孔性カーボンを得るには職人芸的に高度な技術が必要、といった問題点があります。
本研究では、炭素源の有機分子を合理的に設計し、焼成のみで細孔径が分子レベルで制御された多孔性カーボンを得ることに成功しました。この手法では、高カーボン化効率のため元の構造を保ったカーボンが再現性良く得られることに加え、分子設計により分子レベルでの細孔径制御が可能です。得られた多孔質カーボンは、細孔径に適した金属イオンが導入でき、ナトリウムイオン電池として機能することを確認しました。将来的には、特定のサイズの基質のみが反応する触媒への応用が期待されます。
本成果は、2021年5月21日に英国Nature Researchの国際学術誌である「Communications Chemistry」にオンライン掲載されました。
1.背景
活性炭に代表される多孔性カーボンとは、微小な空間(細孔)を有する炭素材料です。主となる構成元素がC(炭素)であるために、耐薬品性・熱安定性・伝導性といった優れた特徴を有しています。また多孔性であるために、軽量であり、細孔に様々な物質を捕まえる吸着材として応用されています。これまでの多孔性カーボンの主な合成法は、1)カーボン骨格をガスや薬品により破壊しつつ細孔を形成する賦活法(注1)、2)鋳型に炭素源を導入し、カーボン化した後に鋳型を除いて鋳型の逆構造の多孔性カーボンを得る鋳型法(注2)があります。しかしながら、これらの方法では、1)材料調製時のカーボン骨格の構造変化が激しく元の有機分子骨格が残らない、2)ナノレベル以下のオングストロームレベル(分子レベル)での細孔制御が困難、3)鋳型法で鋳型を除くためにはコストとエネルギーがかかる、4)同じ多孔性カーボンを得るためには職人芸的な高度な技術が必要になる、といった問題点があります。
2.研究手法・成果
従来の製法では、フェノール樹脂(ピッチ系)やポリアクリロニトリル(PAN系)などのポリマーが炭素源として用いられてきました。しかし、ポリマーの合成法や炭素化の過程が煩雑であり、作り手が変わると得られる多孔性カーボンの品質も異なることがしばしば起こってしまいました。本研究では、炭素源の有機分子骨格を合理的に設計することで、不活性ガス雰囲気下で有機分子を900度で焼成するのみで細孔径が分子レベルで制御された多孔性カーボンを得ることに成功しました。具体的には、耐熱性に優れたベンゼン環部位が3次元的に配列した分子骨格に、熱重合性のアセチレン基を導入した分子1、分子2(図1)を炭素源として不活性雰囲気下で焼成することで、80%を超える高カーボン化効率で、元の分子骨格の大きさを反映した分子レベルの細孔径を有する多孔性カーボンを得ることができました。4つのベンゼン環が3次元的に配列した分子1を焼成したカーボン1は、4.05Åの細孔径を有していますが、8つのベンゼン環が3次元的に配列した分子2を焼成したカーボン2では、より大きな4.40Åの細孔径を有していました。
また分子1から得られたカーボン1は、カーボン電極に用いられる一般的な材料よりも優れた電気伝導性を示しました。また分子レベルの制御された細孔径を有していることから、ナトリウムイオン電池の負極材料(注3)として働くことが分かりました。細孔径の大きさ(4.05Å)がナトリウムイオンのサイズ(3.8Å)に適しており、ナトリウムイオンがカーボンの細孔を通過できるためです(図2)。十分な大きさの細孔を有していないグラファイトに比べて、2倍以上の容量を示したことから、本研究で合成した多孔性カーボンが、分子レベルの細孔径を有することが重要であることが分かりました。
本研究で開発された多孔性カーボンの合成法では、1)焼成するのみという簡単な手法であるために、誰にでも再現性良く分子レベルの細孔径を有した多孔性カーボンが得られる、2)カーボン化効率が80%と非常に高いために元の構造を保った多孔性ポーラスカーボンが得られるために分子骨格を変化させることで細孔径を分子レベルで制御できる、3)鋳型法のように焼成後に鋳型を除く必要がないために安価・低エネルギーで多孔性カーボンが合成できるといったメリットがあります。
3.波及効果、今後の予定
本手法で得られた分子レベルの細孔径を有する多孔性カーボンは、高い伝導性を示し、分子レベルの細孔径を反映した負極電極材料への応用が示されました。分子レベルの細孔径に応じた基質選択的な触媒などへの展開が望まれます。
4.研究プロジェクトについて
本研究は科学技術振興機構JST-CREST(JPMJCR18R3)、文部科学省科学研究費助成事業(JP19H00909)、の支援を受けて実施しました。
研究者(生越友樹)のコメント
これまでの多孔性カーボンの合成法は、カーボンを形成する際にガスや薬品によりカーボン骨格を破壊して細孔を形成するため、同じカーボンを得るためには職人芸的な高度な技術が必要でした。本研究では、有機分子を焼成するのみで、分子レベルの細孔径を有した多孔性カーボンが得られます。誰にでも再現性良く多孔性カーボンを形成でき非常に有用です。これまでの工業的な多孔性カーボンの合成法から化学的な合成への新たな転換となる研究であり、この分野の更なる発展が望まれます。
用語解説
掲載論文情報
- 論文タイトル
- The carbonization of aromatic molecules with three-dimensional structures affords carbon materials with controlled pore sizes at the Ångstrom-level(3次元構造を有する芳香族分子のカーボン化によるオングストロームレベルで細孔が制御されたカーボン材料の創製)
- 著者
- Tomoki Ogoshi,* Yuma Sakatsume, Katsuto Onishi, Rui Tang, Kazuma Takahashi, Hirotomo Nishihara, Yuta Nishina, Benoît D. L. Campéon, Takahiro Kakuta, Tada-aki Yamagishi
- 掲載誌
- Communications Chemistry
- 掲載日
- 2021.05.21
- DOI
- 10.1038/s42004-021-00515-0
- URL
- https://www.nature.com/articles/s42004-021-00515-0