金沢大学 ナノ生命科学研究所

ビタミンD不活性化酵素を阻害する核酸医薬の開発 ~骨粗鬆症、がんの治療につながる~

富山県立大学工学部医薬品工学科の安田佳織講師、榊利之特別研究教授、磯貝泰弘教授、金沢大学ナノ生命科学研究所の中島美紀教授、ビヤニ・マドゥ特任助教らの研究グループは、バイオシーズ株式会社と共同で、ビタミンD 不活性化酵素を選択的に阻害する核酸分子の取得に成功しました。ビタミンD 不活性化酵素の働きが過剰になることで、活性型ビタミンD の体内濃度が低下し、骨粗鬆症や数種のがんを引き起こす可能性が知られていることから、これらの疾患に対する核酸医薬につながることが期待できます。本研究成果は、2022 年4 月20 日に「ACS Applied Materials & Interfaces」でオンライン公開されました。


1 研究成果のポイントについて

  • ビタミンD 不活性化酵素を選択的に阻害する核酸分子の取得に成功しました。
  • 取得した核酸分子は、ヒト肺がん由来細胞株において活性型ビタミンD の効果を持続させ、
    がん細胞増殖抑制効果を高めました。
  • ビタミンD 不活性化酵素の働きが過剰になることで、活性型ビタミンD の体内濃度が低下
    し、骨粗鬆症や数種のがんを引き起こす可能性が知られています。今回の研究結果は、これ
    らの疾患に対する核酸医薬の開発につながることが期待できます。

2 研究の背景と経緯について

ビタミンD は、丈夫な骨や筋肉を保つとともに、免疫力を高める重要な栄養成分として、近年注目を浴びています。ビタミンD は、食品摂取や日光を浴びることで皮膚において合成され体内に供給された後、肝臓と腎臓で水酸化され、活性型ビタミンD へと変換されることで、さまざまな生理作用を発揮します。その作用は、骨形成・骨代謝、血中カルシウム濃度調節や細胞の増殖・分化、免疫調節まで多岐にわたります。活性型ビタミンD はビタミンD 受容体と結合することでこれらの作用を発揮しますが、この際、CYP24A1 と呼ばれる不活性化酵素が誘導され、生体内の活性型ビタミンD 濃度を低下する方向に働きます。このシステムは、活性型ビタミンD の過剰を防ぐ生体の賢いメカニズムであるといえます。

一方で、ビタミンD 不活性化酵素の働きが過剰になることで、活性型ビタミンD の体内濃度が低下し、骨粗鬆症や数種のがんを引き起こす可能性が知られています。例えば、慢性腎臓病ではCYP24A1 が過剰に発現して骨粗鬆症などの骨疾患を引き起こすこと、また、一部のがん細胞でCYP24A1 が過剰に発現していること、血中ビタミンD 濃度の低下が骨粗鬆症や一部のがんに対するリスクを高めることが報告されています。このことから、CYP24A1 特異的な阻害剤は、これらの疾患治療薬への応用が期待できます。CYP24A1 阻害剤として、数種の低分子化合物が報告されていますが、未だ医薬品になった例はなく、今回、より特異性と親和性の高い阻害剤を目指して、研究に取り組みました。

3 研究の内容について

1018 のランダム配列を含む核酸ライブラリーから、ビタミンD 不活性化酵素(CYP24A1)と親和性が高く、かつ、活性型ビタミンD 生成酵素(CYP27B1)と親和性の低い核酸配列の集団を取得しました。得られた多種類の核酸配列を次世代シーケンスにて解析し、配列の出現頻度や2 次構造の違いをもとに、候補を11 種類に絞り込んだ後、それらのCYP24A1 に対する阻害試験を行いました。CYP24A1 に対する阻害効果がみられた4 種類の配列について、他の酵素に対する阻害を調べたところ、いずれもCYP24A1 とアミノ酸相同性の高い活性型ビタミンD 生成酵素やステロール代謝酵素に対しては阻害効果がなく、CYP24A1 を選択的に阻害することが分かりました。
取得した核酸分子の1 つであるApt-7 とCYP24A1 との結合の様子を高速原子間力顕微鏡にて捉えました。この観察結果と分子ドッキングシミュレーション、酵素学的実験を組み合わせ、その阻害部位を予測しました。
さらに、ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞株(A549 細胞)を用いて、Apt-7 のがん細胞増殖抑制効果を調べました。Apt-7 を活性型ビタミンD3 とともに添加した場合、単独で活性型ビタミンD3を添加した場合と比べて、CYP24A1 による不活性化が抑えられ、がん細胞増殖抑制効果が高まることが明らかになりました。

本研究は、「文部科学省科学技術科研費補助金」「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽
引型)共同研究支援制度」「文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)(金沢大学ナノ
生命科学研究所)」の支援を受けて実施しています。

4. 今後の展開について

本研究では、ビタミンD 不活性化酵素CYP24A1 を選択的に阻害する核酸分子Apt-7 を取得
し、がん治療につながる可能性を示しました。今後、阻害効果を向上させる配列の最適化や生体
内での安定性を高める修飾など、Apt-7 を改良していくことで、CYP24A1 の過剰発現に伴うが
んや骨粗鬆症の治療薬へとつながることが期待されます。

5. 論文の掲載について

・公開日:2022 年4 月18 日
・雑誌名:ACS Applied Materials & Interfaces (IF=9.229)
・論文名:Novel DNA Aptamer for CYP24A1 Inhibition with Enhanced Antiproliferative Activity in Cancer Cells (CYP24A1 を阻害し、がん細胞増殖抑制効果を増強する新規DNA アプタマー)
・著者:Madhu Biyani1, 2、安田佳織3、磯貝泰弘3、岡本侑樹3、Wei Weilin1、古寺哲幸1、Holger Flechsig1、榊利之3、中島美紀1,2、Manish Biyani4

所属:
1. 金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)
2. 金沢大学医薬保健研究域薬学系薬物代謝安全性学研究室
3. 富山県立大学工学部医薬品工学科
4. バイオシーズ株式会社

DOI: 10.1021/acsami.1c22965

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